移入種問題      
担当:獣医学科2年 水澤哲也
    動物応用科学科2年 若生宏美
    獣医学科1年 伊藤優子
    獣医学科1年 萩本篤毅
    環境政策学科1年 金子友貴


◎移入種とは??
人間によって意図的、非意図的かどうかにかかわらず、もともと自然状態では生息していない地域へ持ち込まれ、自然に分布した動植物のことです。
島など隔離された環境にある土地への侵入、またその逆で隔離された環境から固有の種が他の地域へ侵入する場合も含まれます。

◎どうして移入種は存在するようになった??
・ペットの野生化 : エキゾッチクアニマル(※)の流行によって、野生動物をペットとして飼うようになりましたが、逃げ出したり、扱いにくいという理由で人間によって遺棄されたりしてしまうことがあります。

・天敵の駆除のため : 人や農作物にとっての害獣を駆除する目的で導入された動物。昆虫を中心に世界各地で行われてきました。日本では沖縄のマングースが有名。

・レジャーのため : 人間の娯楽目的のために野外に放たれてきました。ブラックバスなどが有名な例です。

・物資に紛れ込んで : 人間の移動にともない、人間自身やモノに付着して他の生態系に移動してしまうものがあります。昆虫や植物が中心。

・家畜の野生化 : 知らず知らずのうちに、養殖していたものや、管理していたものが逃げ出し、自然界に定着してしまったものがあります。

(※)エキゾチックアニマル・・・犬、猫以外のペットの総称。カメ、フェレット、リス、プレーリードッグなど。

◎どんな問題が起こるのか??
自然界での動植物の生活スタイルは長い年月をかけてバランス良く相互作用して保たれてきたものです。このシステム化された生態系の中に外部の生物が侵入すると、バランスが崩れてしまいます。その他様々な問題も引き起こってきています。

在来種の捕食
移入種の侵入によって、捕食被食の関係で下級の動植物は捕食されてしまい生態系のバランスが崩れています。本来ならば生き残れたはずの個体が移入種に遭遇することで命を落としてしまうかもしれません。
この問題を起こす移入種(被害地域) 
・アライグマ(北海道、神奈川)
・ジャワマングース(沖縄、奄美大島)
・インドクジャク(南西諸島)
・カミツキガメ(全国各地)
・ウシガエル(本州)
・ブラックバス(本州特に滋賀県、四国)
・ブルーギル(本州、四国、九州)
在来種との争い
生態系において移入種と同じくらいの力関係にある在来種がいる場合に餌、縄張りの種間競争が生じてしまいます。在来種が負けた場合、その数は激減、もしくはその場所が隔離された自然であったら絶滅してしまうかもしれません。
・ タイワンリス→ニホンリスとの競争(神奈川県ほか)
・ ミシシッピアカミミガメ〈ミドリガメ〉→サガメとの競争(全国)
・ オオタナゴ→在来タナゴとの競争(茨城)
・ ブラックバス→在来淡水魚との競争(滋賀県を始め全国)
・ ブルーギル→在来淡水魚との競争(全国)
在来種との交配
在来種の中に、外来種と近縁の種がいた場合、交配して雑種が生まれてしまうことがあります。この遺伝的汚染によって、その生態系固有の遺伝子を持つ種に混乱が生じて、最後にはその種の崩壊が起こってしまうかもしれません。
・タイワンザル→ニホンザルとの交雑(紀伊半島)
・コウライキジ→ニホンキジとの交雑(北海道、対馬)
ズーノーシスの持ち込み
自然界の奥地から捕獲されるエキゾチックアニマルなどの野生動物は、体内に寄生虫を飼っていたり、他の種にとっては害となる微生物やウイルスを保有している可能性があるのです。ズーノーシス(人畜共通感染症)を広めてしまうことになるかもしれません。どんな危険性があるかすべてを把握することは難しく、未知の危険物を持ち込むことと同義なのです。
・アライグマ→アライグマ回虫症は人間に入る可能性がある。
・ハクビシン→SARSの感染源としての危険性をはらんでいる。
・マングース→レプトスピラ症の伝播の危険性がある。
・輸入鳥類→鳥インフルエンザを伝播する可能性がある。
・爬虫類→サルモネラ症などの感染症を広める可能性がある。
人間への直接的危害
移入種が人間の生活圏内に定着ししまっている場合、家畜、農作物を荒らしたりすることがあります。
・アライグマ→農作物等を食害
・タイワンリス→生態系の植物を食害
・ヌートリア→稲、野菜等を食害(岡山)
・カミツキガメ→噛まれることによる怪我の恐れ(全国各地)




◎どういう対策が必要か?
自然界に定着してしまった移入種を捕獲していくには、とてつもない費用、時間、犠牲がともないます。移入種によって持ちこまれた感染症が伝播してしまった場合、その原因を突きとめたり、治療法を考えたりと、たくさんの労力がかかってしまうでしょう。
何よりもまず、問題となる動物を持ち込まないようにすることが必要なのです。日本は島国なので、輸入などを規制すれば、効果的に問題を解決の方向へ進めることができるかもしれません。
では、自然界に定着した移入種はどうすればいいのでしょうか。移入種といっても、その数は脊椎動物で約100種類以上と言われています。その中でも、現在生態系に悪影響を与え、人や農作物に被害を与えている移入種から捕獲していく必要があります。最終的には生態系からの根絶が目的です。
しかし、ここで忘れていけないのは、有害な移入種とされて捕獲される動物には何も責任がないということです。意図したものであるにせよないにせよ、ほとんどが人間の無責任な行動によって本来の生息地から慣れない環境下へつれてこられてしまったのです。多くの意見があると思いますが、「移入種=殺す」という考えはあまりにも短絡的です。捕獲方法、そして捕獲した後も、我々は動物福祉(※)の立場に立って、動物にできるだけ苦痛のないようにすることが必要なのではないでしょうか。

(※)動物福祉・・・動物の立場にたって、動物たちの生活の質を向上させ、むやみに殺したり、苦痛を与えたりしてはならないという考え方。

法律ができました!!
今年5月末に、
『特定外来生物法
(正式名称:特定外来生物による生態系などに係る被害の防止に関する法律)』
が成立しました。
その目的は
特定外来生物の飼養、輸入等について必要な規制を行うとともに、野外等に存する特定外来生物の防除を行うこと等により、特定外来生物による生態系、人の生命若しくは身体又は農林水産業に係る被害を防止する。
となっています。つまり、水際規制、飼育規制、被害対策の3つの点から問題を考え、取り組んでいこうという法律です。
生態系に関わる被害を及ぼす恐れがあると国が判定した移入種(特定外来生物)については、飼育、栽培、保管、運搬などを行うことは学術研究目的で許可を受けた場合を除き禁止になります。輸入も許可を受けた場合を除き禁止になり、野外に放つことも禁じています。野外に定着してしまっている特定外来生物については、国および地方公共団体等の協力で防除するとしています。
生態系に関わる被害を及ぼすかどうか判定されていない移入種(未判定外来生物)においては、判定されるまでの一定期間輸入が制限されます。判定された結果、被害を及ぼす可能性がある種は、特定外来生物として扱われ、可能性のないものは規制がかかりません。
特定外来生物の選定については現在国が行っているところです。
この法律は2005年の4月から施行される予定です。

◎我々にできること
国レベルでの対策が進み、問題解決の道へ動き出してきました。しかし、それには地方自治体、個人個人の協力が必要になってきます。一人でも多くの人が移入種問題を認識し、意識していくだけでも違うかもしれません。当たり前のことですが、手に負えないペットは飼わない、飼っても逃げないようにきちんと管理し、遺棄しないことが重要です。縁日ですくった金魚やミドリガメも、移入種です。近所の池に放すことは一見、動物を自由にする行為に見えますが、それが生態系の破壊につながるかも知れないのです。

◎主な移入種の歴史と実態

ジャコウネコ科。ジャワマングースはもともとヒマラヤ北西部からマレー半島、ジャワなどに広く分布していますが、1910年に21匹のマングースが琉球列島に持ちこまれたのが日本での始まりです。
明治時代にはハブの毒を消す血清がなく、噛まれると死亡するケースが多く、ハブの被害は深刻な問題でした。かつては奄美大島でハブ対策としてイタチを2500匹以上放したこともありましたが、逆にハブにやられて全滅。さらに毒薬を散布しましたが、海に流れて魚や飼いに害を及ぼしてしまうということで中止されました。マングース作戦は最後の切り札として、放たれました。それほどハブが多くはびこり、人間や家畜の被害が深刻だったのです。
しかし、マングースは昼行性で、夜行性のハブと遭遇する機会は少なく、効果はほとんどありませんでした。また、後になって、昆虫食主体の食性だと思われていたマングースは哺乳類、鳥類、爬虫類、両生類も確実に捕食していることがわかったのです。これらの中には、準絶滅危惧類のワタセジネズミ、絶滅危惧U類とされているアマミトゲネズミ、アカヒゲ、ハーバートカゲ、キノボリトカゲ、絶滅危惧TB類のアマミノクロウサギ、ケナガネズミが含まれています。
貴重な動物、生態系を守るためにはマングースの駆除はやむを得ません。しかし、捕獲によってマングースを撲滅できる可能性はありますが、1年当たり数千規模の駆除を実施しなければマングースの増加をくいとめることはできません。現在、沖縄県では約600基のわなを仕掛け、マングースの捕獲に取り組んでいます。捕獲したマングースの捕獲エリアを1匹ずつ衛星を使ったGIS(地図情報システム)で分析し、捕獲時の季節や天候を初め、雌雄別、体長などを細かく分析し、繁殖の状態などを徹底して調査しています。


北米が原産で、日本には1925年に神奈川県芦ノ湖に食用・スポーツ振興として試験放流されたのが最初となります。1964年までブラックバス(オオクチバス)の生息分布はわずか5県にとどまっていましたが、1970年代のルアー・フィッシングブームとともにその分布を広げ、現在では日本のほぼすべての河川に生息しているといわれます。
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この急激な増加の原因の一つに、その引きの良さから、釣り人達による湖・河川への無断放流、釣った魚を再放流するキャッチ・アンド・リリースがあり、また比較的暖流を好むオオクチバス、冷水や流水に強いコクチバスなど様々な種類が入り込み、ほとんどの水域にブラックバスが生息できることにあります。そしてブラックバスは魚類や甲殻類を食べる食肉性の強い魚のため、日本には天敵となりうる魚が存在しないことも増加した要因です。
このためブラックバスの増加は、そこにもともと住む生き物を激減させ、河川本来の生態系を破壊する恐れがあり、実際にブラックバスの増加が確認された地域では、ワカサギや、フナ、ホンモロコなどの主要水産魚種の漁獲量が激減、また希少な小型魚類が姿を消し、ブラックバスを駆除しない限り保護が絶望的な場合もあります。
そのため現在では、多くの都道府県で放流を禁止(都道府県漁業調整規則による)しており、滋賀県の琵琶湖では釣ったブラックバスを買い取るなど積極的に駆除し、03年度の全体の捕獲量は444トンに上っています。(ブラックバスと記述する際はオオクチバス、コクチバス、ブルーギルを指します。)


アライグマは、魚、鳥、ほにゅう類、果物、とうもろこしなどの農作物、人の残飯に至るまで食べる幅広い雑食性であり、森林、湿地、市街地など多様な環境に適応し、生息範囲を広げています。もともとが北米原産であるため日本にはこれといった天敵がいないのも個体数増加に結びついています。
日本には1970年代後半、ペットとして人気が高まり一時期は数万頭という単位で輸入されました。幼獣のときは人間に懐き比較的飼いやすいが、成獣になると気性が荒くなり飼うのが難しくなります。また頭がよく学習能力が高いので、器用な手先を使って檻の鍵を開けたり、ドアを開けたりもします。そのためか、飼い主が持て余すことによって野山に捨てたり、脱走してそのまま野生化してしまうことが後を絶ちません。現在もペットとして人気があるためその数は増え続けています。
現在アライグマに対して何か対策を行っている自治体はあまり多くありませんが、アライグマによる被害はいたるところにでてきています。農作物を食い散らかしたり、民家や農場に巣を作くることにより家屋が破損したり悪臭被害が起き、またもともとそこに住むキツネやタヌキ、サギなどの数が減少するなど、将来的に取り返しが付かない事態に発展するかもしれません。北海道では、農業被害、生態系の保護を理由にアライグマの駆除を行っています。


現在、紀伊半島で問題になっているタイワンザル問題。この発端は、和歌山県内にあった私設動物園が閉園したことによります。飼育されていたタイワンザルが野生化してしまったそうなのです。紀伊半島にはもともと在来種としてニホンザルが生息していますが、タイワンザルとは近縁種のため、侵入によって交配が起こってしまいました。そして雑種ザルが存在するようになってしまったのです。ニホンザルの尾長は約5〜9cmなのに対し、タイワンザルの尾長は約35〜45cmあります。そして生まれた雑種ザルは約20cmほどだそうです。
事の深刻さに気づいたのは1998年になって、尾が中途半端な長さの個体の血液でDNA鑑定が行われ、雑種ザルと判明したときでした。その時には和歌山県内の野生ザルのうちの40%近くが雑種になっていたと言われています。このまま交雑が進めば、純粋なニホンザルの遺伝子が失われるということで、2000年から和歌山県では、サル保護管理計画を進め始めました。
2003年3月から捕獲が始められ、捕獲された個体はほとんどが安楽死されました。開始時、紀伊半島のタイワンザル、雑種ザルは約300匹いたといわれていますが、2004年4月の段階で、残っているのはあと50匹規模だと見られています。