■実験動物における安楽死 担当:岩沢恵
安楽死:Euthanasia ラテン語
eu(good、良い)+thanatos(death、死)から由来。
人間の場合、尊厳死という言葉もあります。安楽死と尊厳死は、厳密には異なります。
安楽死とは、末期癌患者などの苦痛をできるだけ早く取り除くために死を早める行為をいい、
尊厳死とは植物人間になった人の生命維持装置を取り除いて自然な死を待つことに使われます。
動物についても同様で、不安や恐怖をできるだけ与えずにかつ速やかに意識を失わせ、痛みを感じさせなくするものです。
実験動物の場合は「実験等を終了し、または中断した実験動物を処分するときは、速やかに致死量以上の
麻酔薬の投与、または頚椎脱臼等によって、実験動物にできる限り苦痛を与えないようにすること」
(実験動物の飼養及び保管等に関する基準、昭和48年、総理府告示)と定められています。
目的のないまま飼育を続けてはいけません。
1993年にアメリカ獣医師会がまとめた報告によると、大きく分類しても15種ぐらいの安楽死法があります。
それぞれについてメリット、デメリットが評価されています。その評価基準には、
1)痛み、窮迫、苦悶、あるいは不安を伴わずに致死させうること
2)意識消失までに要する時間が短いこと
3)確実であること
4)実施者にとって安全であること
5)不可逆的であること
6)条件と目的が両立すること
7)観察者または術者に及ぼす情緒的影響が少ないこと
8)死後の評価、検査あるいは組織の利用と両立すること
9)薬物の入手が可能で乱用のおそれのないこと
10)動物の齢や種に関係なく使えること
11)装置のメンテナンスがしやすいこと
の11項目が挙げられています。
各動物種に対して用いられる種々の方法があり、それぞれに長所と短所がありますが、
実験の性質により最も適切な方法を選択するべきです。
表 各国における実験動物の使用数
動物種 |
日本 (1998) |
英国 (2000) |
カナダ (1999) |
ニュージーランド (2000) |
米国 (1997) |
マウス |
3,153,272 |
1,606,962 |
648,550 |
93,805 |
動物福祉法の 規制対象外 |
ラット |
1,529,676 |
534,973 |
268,583 |
10,776 |
|
イヌ |
21,571 |
7,635 |
7,444 |
985 |
75,429 |
ネコ |
4,847 |
1,813 |
2,576 |
332 |
26,091 |
サル |
9,037 |
1,494 |
1,131 |
記載なし |
56,381 |
その他 |
907,713 |
561,849 |
818,322 |
218,497 |
1,109,927 |
合 計 |
5,626,116 |
2,714,726 |
1,746,606 |
324,395 |
1,267,828 |
実験動物の安楽死の方法
実験動物の飼養及び保管等に関する基準の解説より
昭和55年3月
編集 実験動物飼育保管研究会 監修 内閣総理大臣官房管理室
ア.安楽死の方法
動物種 バルビツレイト静脈注射 炭酸ガス吸入 頸椎脱臼 頭蓋打撲 断首 煮沸
マウス + *1 + + +
ラット + *1 + + + +
モルモット + *2 + +
小型齧歯類 + *1 + + + +
ウサギ + *2 + +
ネコ + +
イヌ + +
サル類 + +
トリ類 + *2 + +
家畜類 + + +
下等脊椎動物 + + +
無脊椎動物 +
注 *1:腹腔内でもよい。
*2:心臓内でもよい。
イ.安楽死の具体的処置
(ア) バルビツレイト注射: 例えば、ペントバルビタ−ルナトリウム(ネンブタ−ル、ソムノペンチ−ルな)を
麻酔量の2〜4倍(60〜120mg/kg)を急速に血管内に注入する。この際、どちらかというと濃厚液を用いるとよい。
マウス、ラットなどでは多少効果発現が遅れるが、腹腔内注射でもよい。モルモット、ウサギ、トリ類では心臓内注射
も行われる。チオペンタ−ルナトリウム(チオバ−ル、ラボナ−ル、ペントタ−ルなど)、サイアミラ−ルナトリウム
(イソゾ−ル、チトゾ−ル、サリタ−ルなど)等のバルビツレイトを使用する場合も同様である。
(イ) 炭酸ガス吸入: 密閉容器あるいはビニ−ル袋に直接又はケ−ジごと動物を収容し、炭酸ガスを導入する。
動物は興奮することなく速やかに 死亡する。普通、炭酸ガスはボンベから得るが、小動物ではドライアイスを
利用してもよい。いずれにしても、安価で安全な安楽死法である。
(ウ) 頚椎脱臼: 頚椎を機械的に脱臼させる操作で、指又はピンセットなどの棒状のものを用いて、頚部と頭部を
一気に伸張する。一見残酷な感じを与えないでもないが、きわめて急速な意識の消失を起こす優れた手段である。
手際よい処置のためには、若干の練習を必要とする。
(エ) その他: 頭蓋部の的確な強打による急激な中枢の破壊は有効な手段であるが高度の熟練を要する。
また、専用の断頭器又は鋭利なはさみ等 により瞬時に断頭する方法もある。
ウ.安楽死の処置に当たっての注意
以上の安楽死の処置を実施するに当たっての、いくつかの注意事項を付け加えておく。
(ア) 処置前に動物に不安感を与えてはならない。動物を静穏に扱うと同時に、適切な保定が必要である。
(イ) 処置開始から意識消失までの時間をできるだけ短くすることが望ましい。
その意味からすると、頚椎脱臼、頭蓋打撲、断頭などは有効である。
(ウ) 安楽死はあくまで動物側に立って実施されるものであるので、人の立場からみて
外見上残酷感を与えるというだけで判断してはならない。また逆にサクシニ−ルコリンクロライドのような
筋弛緩剤を用いることは、動物が眠るように倒れるけれども、意識消失を伴っていないので不適当である。
(エ) 従来、比較的多く使われてきた空気栓塞、硝酸ストリキニ−ネは動物に苦痛を与えるので、やめるべきである。
(オ) 人の安全の面からみて、引火性の強いエ−テル、肝、腎、心などに毒性の強いクロロホルム、並びに
専用器具を使わない銃殺、電殺などは好ましくない。
(カ) 安楽死の作業は、実験動物関係者つまり管理者等以外の人の眼に触れない場所で実施されるべきである。
また、当然のことながら、処置後実 験動物の死が確認されなければならない。
補足
1. クラーレ及びクラーレ様の作用を持つ薬剤、硫酸ニコチン、塩化カリウム、硫酸マグネシウム、パラクワット、
ジクロルヴォスは、不適当とされています。
2. 死亡の確認を確実に行って下さい。
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