■補助犬の普及に向けて  担当:郭真太郎

1. 日本における補助犬の現状と海外との比較
   今日本で働いている補助犬は盲導犬957頭(2005年3月末日現在)、介助犬28頭・聴導犬10頭
   (2005年7月21日現在)と少なく普及が進んでいません。アメリカでは盲導犬約10000頭、介助犬
   約3000頭、聴導犬4000頭とその差は歴然としています。普及が進まない背景には歴史や文化の
   違いがあり、また法律についても差が見られます。日本では身体障害者補助犬法がアクセス権の
   保障をしていますが緩く、さらに受け入れ拒否に対する罰則がありません。一方アメリカ、カナダ、
   オーストラリア等ではアクセス権をしっかり保障していることが多く、罰金を科すこともあります。
   また身体障害者補助犬法の認知度が不足していることも大きな要因となっています。


2. 具体的な問題点
 ・ 費用
   補助犬を育成するには、飼育費や人件費もかかり多額のお金が必要です。しかし補助犬訓練
   事業者の多くは寄付金を頼りにしており、収入の90〜95%が寄付金ともされています。
   これは年間の補助犬頭数が少ないことに大きく関わっています。
   また国などからの補助金が多少出ていますが、多くの場合実際に補助犬が育成されてから交付されます。
   さらに補助犬の飼育・維持管理費用は原則ユーザー負担であり、所得の低い人は補助犬がほしくても
   なかなかできないといった問題もあります。

 ・ 補助犬の数
   まず育成のための資金がないことが大きな原因になっています。また盲導犬においては、
   候補となりうる犬は血統が決まっており各団体間の所有する犬における交雑も少なく、
   主な犬種であるラブラドールレトリバーは股関節形成不全や進行性網膜萎縮症などといった
   遺伝性疾患をもっていることもしばしばあります。また聴導犬や介助犬については盲導犬に比べて、
   ユーザーと生活をする上での個別の訓練が多くそこに時間がかかるという問題があります。
   さらにどの補助犬もそれぞれの職の適性が必要であり、盲導犬において適性があるのは
   血統がある候補犬のうち3〜4割とも言われ、
   聴導犬においては動物保護センターで見つける場合1%以下と言われています。

 ・ 補助犬のアフターケア、質
   補助犬訓練事業者は大小様々あり、これが補助犬のアフターケア、質に大きく響いてきます。
   盲導犬は各育成団体が、聴導犬、介助犬の認定は厚生労働省が指定した法人が行っていますが、
   育成は個人で行うこともあり特に厳密な訓練基準はないので補助犬の質の差があるかもしれません。
   育成施設によって補助犬の質が違うと、ユーザーは選択の余地がなくなるといった問題も生まれてきます。
   またアフターケアも重要で、ユーザーの生活の状況が変わったら再び訓練しなければなりませんし、
   引退時の代替犬の確保もありますし、トラブルが起きたときの対応の仕方もその後のユーザーの生活に、
   さらには社会にも影響するかもしれません。気をつけないとユーザーにとって死活問題となり得ます。

 ・ 社会の理解
   身体障害者補助犬法は今ある問題等を改善しようとできたものですが、
   まだ社会一般にはそれほど普及していないのが現状です。
   あるアンケートでは、法律の内容を知っていた人は15%に達しておらず、
   半数近くの人は法律自体も聞いたことが無いという結果でした。
   また補助犬については知っていても、仕事ぶり、振る舞いといったことは知らず誤解を招いていることもあります。
   そしてこの理解度は地域、店の規模によっても違います。
   例えばある盲導犬ユーザーの話では、都市部は地方と比べて盲導犬を見かける機会があるから
   入店拒否ということは少なくなったが、地方ではあまり知られておらずしばしば入店拒否ということがあるとのことでした。
   また大規模の商店等は法律を知っているので受け入れ体制が整っていますが、
   小規模の商店、個人経営の商店では入店拒否があることも多いです。

3. 改善策、試み
 ・ 費用
   欧米では寄付金が制度化されていて、これが財源の安定につながっている部分もあります。
   支出の明細を明らかにし、寄 付の必要性を訴えて求めていくこともできます。
   また盲導犬の育成助成金は都道府県や指定都市に下り、その三分の二は
   障害者生活訓練・生活コミュニケーション支援等事業に充てられているので、
   全額を盲導犬の育成だけのために充てることもできます。
   さらに行政が計上する予算には人件費を入れておらず、人件費に回せる助成金を増やすことができたら、
   よりよい人材を集められ、つまりよい補助犬育成にもつながります。

 ・ 補助犬の数
   盲導犬では各団体が所有する犬(血統を持つもの)には限りがあるという問題があります。
   そこで、最近では海外から優秀な盲導犬の精子を輸入し凍結保存して、
   人工授精に使うなどの試みも行われています。
   また遺伝性疾患の問題を解決するために様々なラブラドールレトリバーの情報を集めデータベース化することにより、
   交配時の遺伝性疾患の発現率を抑える試みもあります。また育成を行うトレーナーも不足していましたが、
   盲導犬訓練士学校が開校され問題解決に役立っています。
   介助犬については現在盲導犬不適格犬だった犬が介助犬になることもしばしばですが、
   適性さえあれば動物保護センターから見つけてくることも十分可能です。

 ・ 補助犬のアフターケア、質
   今のところ補助犬の認定は各育成団体の基準で行っていますが、
   一定の基準を設けることで育成団体による補助犬の質の差が小さくなる可能性があります。
   また補助犬ユーザー、補助犬を受け入れる側がトラブルに巻き込まれたときに相談できる窓口を設置してほしい
   という意見があり、それに向けて体制を整えています。

 ・ 社会の理解
   この、社会の理解がなにより重要になってきます。そのために啓蒙活動が大きな役割を果たしています。
   日本盲導犬協会では月に2回見学会を行ったり、また全国各地のダイエーでは補助犬ふれあい教室を開催したり、
   さらにホテルグランヴィア京都では盲導犬と身体障害者補助犬法の認知向上を目的とした
   「グランヴィア・夏休みの自由研究 宿泊プラン」を発売したりと、補助犬普及のための催しが補助犬訓練施設だけでなく
   一般企業でもあります。こうした催し以外にも説明が書かれた“補助犬同伴可”のステッカーを店舗に貼ることも有効です。
   また、現行の身体障害者補助犬法では、アクセス権の拒否に対する罰則規定がありません。
   これに罰則規定を設けるなど法律の改正、強化、制定を行うことも有効です。
   さらに、私たちは正しい補助犬の知識を身につけそれに基づいた行動を取ること、ユーザーは補助犬の日々の手入れ
   (+訓練)を怠らないこと、補助犬育成施設等ではいっそうのPRに努めることも大切です。


補助犬、それにまつわる法律が普及することは大切ですが、そこで常に考えなくてはならない事があります。
それは身体障害者補助犬法第一条末文、「身体障害者補助犬の育成及びこれを使用する
身体障害者の施設等の利用の円滑化を図り、もって身体障害者の自立及び社会参加の促進に寄与することを目的とする。」
ということです。
補助犬は命令を聞きこなして感心するのではなく、身体障害者がどのように自分の命令を聞かせているのだろうか、
どのような生活をしているのだろうか、と犬中心にではなく使用者である身体障害者を中心に考えることがもっとも大切です。
使用者が楽しく補助犬と暮らしているということ、困ったことがなく町を歩け、
目的の場所に行くことができるということが理想的な社会かもしれません。

参考資料
身体障害者補助犬法(概要)
1.目的
 良質な身体障害者補助犬の育成及びこれを使用する身体障害者の施設等の利用の円滑化を図り、
もって身体障害者の自立及び社会参加の促進に寄与すること。
2.定義
     「身体障害者補助犬」とは、盲導犬、介助犬および聴導犬をいう。
3.身体障害者補助犬の訓練
  1.事業者は、適性を有する犬を選択するとともに、これを使用しようとする身体障害者の状況に応じた
    訓練を行うことにより、良質な身体障害者補助犬を育成しなければならない。
  2.訓練事業者は、身体障害者補助犬の使用状況の調査を行い、必要に応じ再訓練
    (フォローアップ)を行わなければならない。

4.施設等における身体障害者補助犬の同伴等
  1.国、地方公共団体、公共交通事業者、不特定多数の者が利用する施設の管理者等は、
    その管理する施設等を身体障害者が利用する場合、身体障害者補助犬の同伴を拒んではならない。
    ただし、身体障害者補助犬の同伴により当該施設に著しい損害が発生するおそれがある場合などはこの限りではない。
  2.民間事業主及び民間住宅の管理者は、従業員又は居住者が身体障害者補助犬を使用することを
    拒まないよう努めなければならない。
  3.身体障害者補助犬を同伴して施設等(住宅を除く。)の利用又は使用する身体障害者は、
    その者のために訓練された身体障害者補助犬である旨の表示をしなければならない。
5.身体障害者補助犬に関する認定等
  1.厚生労働大臣は、身体障害者補助犬の訓練又は研究を目的とする公益法人又は社会福祉法人であって
    身体障害者介助犬の認定業務を適切に行うことができるものを指定することができる(指定法人)。
  2.指定法人は、身体障害者補助犬として育成された犬であって申請があったものについて、
    他人に迷惑を及ぼさないことその他適切な行動を取る能力を有すると認める場合は、
    その旨の認定を行わなければならない。
6. 身体障害者補助犬の取り扱い等
  1.訓練事業者及び身体障害者補助犬を使用する身体障害者は、身体障害者補助犬の体を
    清潔に保つとともに、予防接種及び検診を受けさせることにより、公衆衛生上の危害を生じさせないよう
    努めなければならない。
  2.国及び地方公共団体は、身体障害者補助犬が果たす役割の重要性について国民の理解を深めるよう
    努めなければならない。
7.施行期日等
  1.この法律は、平成14年10月1日から施行する。ただし、3.のうち介助犬又は聴導犬の訓練に
    係る部分については、平成15年4月1日から、4.(1)のうち不特定多数の者が利用する施設の
    管理者に係る部分は平成15年10月1日から施行する。
  2.この法律の施行後3年を経過した場合、この法律の施行の状況について検討が加えられ、
    必要な措置が講ぜられるものとする。




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